2020/12/3

暖かい家、暖色の明かり、キャンドルの火、煙草の煙、有難うという言葉、不意に起こる笑い、冬の肌が染みるほどの寒さ、寛ぐ太った猫、よちよちと散歩する犬、テレビを見る爺さん、緊張する心、沸き立つような女性への想い、メロウな音楽、電波が遠いのだろうか掠れるラジオ、高校の甘酸っぱいような思い出、死んでしまった友人、明日はオフィスへ出社、孤独だけがいつも傍にいる楽しみも悲しみも苦しみも喜びも抱きかかえてしまいたい。暖かさも寒さも抱きかかえてしまいたい。リモートワークの中で一日中稼働する電気ヒーター。電気代が馬鹿にならないから、付けたり消したりしている。水分を含んだ暖気だから、乾燥した冬には丁度良い。どこへ向かうかも分からないまま、1年たたずして会社を退職すると言った。本当にどこへ向かうかも分からない。不安と同時に高揚感がやってきた。生活音が耳障りであったが、音がない世界なんて退屈だと見方を切り替えてからは、別に悪いものではないと思うようになった。銭湯に通っている。家に風呂がないから、毎日通っている。1日470円の出費は、電車賃や食費のように、私にとっては生きるために必要だ。湯にまとわりつく焼けた木の匂い。どちらが優れているとか、劣っているとか、比較にこだわることは人生を制限してしまう。なるべくふらっとにゆったりと構えていたい。会社の役員よりも会社の清掃員になりたいと思ったりもする。物事の切り取り方が普通とは違って、ささやかな幸福を見つけることが私は得意だったりするかもしれない。足りないものを追いかけるように、人間は流転する。それはお金であったり、恋人で会ったり、役職であったり、結婚であったりする。私だって足りないものだらけだと思ったが、四畳半の部屋に一人、何もないがそれでも大丈夫だと感じたりする。商店街には、ドラッグストア、やきとり、とんかつ、コンビニ、蕎麦、豊かな世界が目の前に広がっている。冷水で顔を洗うと、世界が際立ってくる。うねる波のように、人の世は変化していく。意味が分からないのに笑い合ったりする。赤子の目は私よりも澄んでいて、心の中まで見透かされているような感覚になる。どこまで歩いても、人々との関りがある。他に何があるのだろう、何もないのに何かを求めている。どれだけお金を持っていてもあの世には持っていけない。一日に食べる量も、放出する精液の量も、睡眠時間も限りがあって無限に続くわけではない。この事実から、スムーズで無駄のない人生の設計が大切であることが分かる。意図的に制限をつくるのである。トレーダー 写真家 物書き。形のないもの、とらえどころのないもの。雨の匂い。誰もいない公園。空っぽな海。この人生でできることをする。どんな人間も、何かを表現している。