どこかへいってしまった
昔、両親に連れられて向かうスキー場への道のりが大好きだった
暖房の効いた暖かい車内と、
雪山へ近づくに従って低くなってゆく気温と、
シンとした空気の匂いが大好きだった。
車内ではポップな音楽が流れ、車窓からは雪がちらつく。
俺はシートベルトをしたまま、そこに座っていた。
弟は隣で眠っていた。
母も前で眠っていた。
ミントガムの香りが車内に充満していた。
そこは穏やかな空気で満ちていた。
雪山の、夢のように真っ白で、静寂なその佇まいに、幼いながら満たされていた。
俺は間違いなくそこにいた。
俺は間違いなく包まれていた。
今もそうなんだと思うのである。
俺は間違いなく包まれている。
みんなどこかへいってしまうが、ここにいる。
やがて銀河をも飲み込むほどに、内へ内へと潜る。
存在を感じる。
存在を感じているだけでいいのだ。
俺はようやくスタートラインに立った。
ようやく自分の人生を始めることができる。
静かに、地に足をつけ、歩いていける。